現在ジュリアード音楽院、バークリー音楽院、ギルドホール音楽院、英国王立音楽院など欧米の一流の音楽教育機関では必ず必修化され音楽界の次世代を担う学生たちの才能を守り育て発揮させる重要なツールになっているのが 心身教育メソッド「アレクサンダー・テクニーク」 です。日本においては2012年からは東京藝術大学大学院にて毎週の授業として採択され、いまは私が授業を担当しています。
このアレクサンダー・テクニークは一体どのように日々の練習に取り入れ活用したらいいのか、というテーマでこの週末セミナーをするので、その内容の構想を練るのを兼ねてメモをここに記します。
「調子の良さ」をまぐれじゃなくする
演奏をするひとがアレクサンダー・テクニークを取り入れることの有用性のひとつに、調子の良し悪しを運やまぐれに委ねなくて済むようになってくることがあると思います。
「調子が良い」ときは、自分の能力が感じられて、自信を持てますね。しかし多くのひとは「なんだか調子がイマイチ」なことの方が多く、調子が良かったときの音や感覚が「あれは何だったのかな...」という、いわばまぐれのように感じられるのです。
ですが、本来の奏者の能力は決して「調子が悪いときの能力」ではありません。調子が良いときに垣間みる響き、柔軟性、音楽性、強靭さ。これこそが「その奏者の持てる能力」です。
私たちが自分のことを見放さず諦めずに努力できる大きな理由のひとつが、自分の能力をどこかで感じているからです。
アレクサンダー・テクニークでは、「頭の動きが身体全体の協調作用に大きな影響力を持っている」という仕組みに着目して、調子が良い時と調子が悪い時のちがいを明らかにしています(アレクサンダー・テクニークについてより詳しくは→こちらの冊子をどうぞダウンロードしてお読み下さい)。
多くの場合私たちにとって調子の良し悪しは「謎」で終わっています。それは「頭の動きが身体全体の協調作用に大きな影響力を持っている」という仕組みを知らないからです。この仕組みを知り、身体全体の協調作用が回復され維持されるようにしていくのがアレクサンダー・テクニークという手法なので、調子の良し悪しは「謎」ではなくなり、より的確に調子を整えられるようになります。
からだの実際のつくりに沿って演奏できるようになる
演奏能力を阻害したり損ねたりしている大きな要因のひとつに、からだについての誤解 があります。
私たちはからだを使って演奏をします。その身体の動きは、私たちが「からだについて何と思っているか」に応じて決まります。このとき、もし身体について思っている事が実際の身体のつくりとちがっていると、私たちは動けないところを無理矢理動かそうとしたり、動けるはずのところを動かないようにしてしまい、結果からだがぎこちなくなったり緊張したりします。
アレクサンダー・テクニークのレッスンでは、からだについて簡単かつ必要、そして非常に有用な知識を受講者の質問や現状に合わせて教えています。
そのため、レッスンを受けた後から、普段の練習の際から新しいからだの知識やイメージを活用するようになりますから、発達・修正・習得される演奏技術が身体のつくりにマッチした無理のないやり方として定着していきます。
これはそのプレイヤーの怪我や不調の予防はもちろんのこと、そのプレイヤーが将来的に指導をするときに、楽器の初心者に対しての初期指導の時点で身体の実際のつくりにマッチした指導をすることにもなります。そのため、演奏スタイルや受け継がれてきた伝統の中に含まれる実は間違ったことを排除し、
クセではなく受け継がれるべき本来の精神やスタイルがもっと的確に継承されていくことになります。
実際に有効なので、集中して練習できる
「頭の動きが身体全体の協調作用に大きな影響力を持っている」という仕組み。これは現実に存在するものです。そのため、再現性がありまた継承性もあります。
音楽の演奏技術を先達から学び吸収していく際、私たちの多くは非常な苦労を経験します。なぜなら師匠や先輩が教えてくれる事の多くは、その師匠ないし先輩の「主観」であるからです。
その中には、感覚、イメージ、実際の動き、解釈、印象などが混在しています。そのため、師匠や先輩ができるが自分にはできないことを何とか習得しようと試みる時、いったい師匠や先輩に教えてくれることのどの部分がどこまで有効か分からず苦心するケースが多いのです。
アレクサンダー・テクニークのレッスンで得られることはいずれも「実際に有効なもの」です。レッスンで学んだ思考方法とからだの使い方を練習に取り入れると、必ず効果があり、必ず上達につながります。「頭の動きが身体全体の協調作用に大きな影響力を持っている」という現実に存在する仕組みに基づくからであり、またからだの実際のつくりにマッチした指示でもあるからです。
これは日々の練習の「効果」を高めます。練習の「成果」を実感できるようになるととても自信になり、その自信が練習への集中を生み、また成果が挙がる、という好循環を生み出すのです。
音楽をやっていると、どうにも乗り越えられない巨大な壁にぶち当たったり、大きな失敗を経験したりして、ともすると自信を失います。多くの人は「とにかく苦労」しているのです。アレクサンダー・テクニークは苦心惨憺の悪循環を、好転させるツールとしてとても有効なのです。
いったん好転してくると、自分にはどんな考え方ややり方が相性が良いかが分かってきて、取捨選択ができるようになりますから、そうすると色々なものが混在した情報の宝庫である「師匠や先輩の言葉・教え」の意味や実際のところが分かってくるようになります。
セミナーの流れ
(このセミナーは月2回以上継続してアレクサンダー・テクニークを受けている人たちが対象)
- 大学時代の初期、1日5時間ぐらい練習していた
- でもなかなか上達できない
- しかも耐え難い腰痛
- アレクサンダー・テクニークのレッスンを受けた
- 腰痛が解消!!!
- 吹いてみると、音も吹き心地もぜんぜんちがう!
- でも10分間しかその最善の状態が維持できない
- そこで、1日10分に限られてもいいから、「痛くない良い状態」の時間だけ練習することにした
- そっから人生で初めて、練習したらうまくなるという実感が得られるようになった
- 頭が動けて身体全体が動きやすくなる協調作用が働いているときに楽器の練習をするということ
- 疲れや集中力の欠如のために、頭を固めて身体を縮めている自分に繰り返し気付いたら
→ 思い切って練習を中断しよう。翌日にリスタートしよう。
- 「練習する」ということ自体と、「頭と身体の望ましい協調作用」を関連づける
- アレクサンダーレッスンでは、レッスンで変化や効果のあったとき、それを起こした「思考」を持って返りたい。
- 先生の「言っている事」をよく聞き、覚えて返ろう。それを使おう。
→ 変化自体やそのときの感覚を覚えたいのではない。それは不可能。再現性がない。
- 練習するとき、アレクサンダーレッスンで使った思考を、一語たがわずに頭の中であるいは口に出して言ってみよう
- 書いておくと便利。
- 頭が動けるようにして + そうすることで身体全体が動けて + 「〜する」
- 「〜する」= 直接演奏に関る部分(息を吐く, 指で鍵盤を弾く, ボーイングする etc....)
- 身体全体の使い方への着目 = どんな状況でも頼りになる「意識の向け先」
- 身体の構造に沿ったアイデアを使う ex.腕は〜から動く
- 曲を準備する際
=音楽的意図の準備+技術的意図の準備+それらを支える協調作用の意図(=アレクサンダー)
- 本番=上記の「準備した意図」+ それの繰り返しにより定着 + 定着から生まれる創造性・即応性

ジュリアード音楽院やギルドホール音楽院、バークリー音楽院から英国王立音楽大学など世界のトップレベルの音楽教育機関で、演奏家の才能を守り育てるために必須となっている心身教育メソッド「アレクサンダー・テクニーク」。無料メルマガですが、配信内容は豊富で出版されているあらゆる本より分かりやすく、役立ちます。左の画像をクリック!
コメントをお書きください