「違う」と「異なる」のちがい

楽器演奏や歌唱の練習をしているとき、(わたしを含めて)ほんとうに多くの、おそらく99%の人がやっている「もったいないこと」があります。

 

それは、思っていた音と異なる音が鳴ったときに、『間違い』『ミス』『悪い』というレッテルを一瞬のうちに貼付けてしまうことです。

 

まず純粋に脳や身体の視点に立ってみましょう。

 

脳:「さあ、Dの音を出すぞ!身体よよろしく頼んだぞ」

身体:「はい分かりました、エイ!」

 

そんなやり取りがあります。

 

脳:「お、Eの音が鳴ったな。ということはDの音はもうちょっとこっちだ。さあ身体よ頼んだぞ」

身体:「了解しました。いきます!エイ!」

脳:「おお、今度はD♯だ。あともうちょういだ。さあ、身体よ、Dの音をよろしく頼んだぞ」

身体:「なるほど、分かってきました。こうですね。エイ!」

脳:「おお〜、思い通りのD音だ。身体よ、よくぞやってくれた。ついでにEやD♯も分かったな」

身体:「はい、この調子でお任せ下さい」

 

こんなやり取りであれば、いいんですよね。これが上達の過程です。どこにもストレスが無いのが分かりますか?それは、思い描いた音と別の音を身体が鳴らしたときも、脳は「ああ、異なる音が鳴ったんだな。なるほど。じゃあもう一度やってみよう」と考えているからです。

 

そう、思い描いている音と別の音が鳴る事は ミスではない のです。

 

なぜなら、身体は単純に動いただけ。そこに良い悪いはありません。脳が自分の趣味で「こんな音が欲しい」と言っているだけですが、身体は言う事をちゃんと聞いて何かやってくれようとします。その結果が脳の趣味と符号していないだけの話ですから、脳は言う事を何でも聞いてくれる身体に改めてお願いし直せばよいのです。そうするうちに身体は必ず脳の趣味通りにやってくれるようになります。 そこに少し時間と試行錯誤がかかるだけ なのです。

 

なのに、私たちは自分の思い描いている音や脳の趣味に符合しない音が鳴った瞬間に、『ミスった』『ダメだ』というレッテルを貼ります。ただ「異なる」だけの結果に対して、「違う」という言葉を使うのです。

 

これは、さきほどのやりとりで見ると

 

脳:「こらぁ〜!お前なにしとんねん!殴るぞボケ!」

 

と身体を脅迫しているのと同じです。

 

身体:「申し訳ございません(大汗)滅相もございません(大泣き)死んでお詫びします」

 

かわいそうなことに、身体は自らをぎゅーぎゅーに固め、謝り倒します。

 

もちろんその途端に身体は謝る事に一生懸命になって、次の脳からの指令をちゃんと聞けなくなります。結果、脳の思い描いている音を出す可能性がどんどん減って行くのです。こうして悪循環が始まります。音を思い描いている段階から「間違えないように」とついつい身体を脅迫してしまいますよね....

 

必要なのは 脱レッテル貼り。次のようなアプローチを練習のときに試してみてください。

 


A:音を出す前に考えおこう

・自分の仕事は音を思い描いて、あとは身体におまかせすること。

・思い描いている通りの音が出れば、ラッキー。たまたま身体がうまくやってくれた。褒めてあげよう。

・思い描いているのと「異なる」音がでるかも知れない。それはそれで大歓迎。別の音の練習になるわけだから。

 

 

B:音を出し終わった後に考えてみよう

・身体は、思い描いた通りの音、それとは「異なる」音を出してくれた。

・どちらにせよ、うまいことやってくれた

・思い描いた通りの音か、別の「異なる」音の練習ができた。どっちにしてもラッキー

・さあ、もう一度何か思い浮かべて、身体に任せてみよう

 

 

脱『ミスった』レッテルに取り組んでみましょう。びっくりするぐらいシンプルになってきます。

 

うまくなりますよ。

 

 

 

 

 

ジュリアード音楽院やギルドホール音楽院、バークリー音楽院から英国王立音楽大学など世界のトップレベルの音楽教育機関で、演奏家の才能を守り育てるために必須となっている心身教育メソッド「アレクサンダー・テクニーク」。無料メルマガですが、配信内容は豊富で出版されているあらゆる本より分かりやすく、役立ちます。

 

 

 

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コメント: 4
  • #1

    kaorin (金曜日, 22 6月 2012 16:55)

    面白いです!やはり自分の体とも、尊敬しあえる関係がいいですね。

    このスカポンタン!ドロンジョ様と手下を思い出します。あの関係はよくないと、子供心に思っていたものです。(古くてごめんなさい)

  • #2

    阿部 真美 (金曜日, 22 6月 2012 18:41)

    脳の病気になってわかるのは、いつも気持ちは、上向きでないと手足は動きません。不思議ですが、麻痺を深刻に捉えるとなかなか動くようにならないのですが、何とかなるさ位の気持ちでリハビリを続けている方は、動く様になります。身体のうごきは、脳からの司令でうごきますが、なんか関連があるかと思います。

  • #3

    バジル (日曜日, 24 6月 2012 18:40)

    kaorin さん

    このサイト初コメントありがとうございます♪ 私は、ジャイアンとスネオがすっごく嫌いでした。あんなふうにのび太をいじめるなんて、ひどい.... と子供心に思ってました。

  • #4

    バジル (日曜日, 24 6月 2012 18:41)

    阿部真美さん

    貴重なシェアリングありがとうございます。それはすごく大事な体験ですね。リハビリ過程においては、きっとからだを動かす回路の再構築をやっているのだと思いますが、「気持ち」がとても大事なのですね。すごいお話です!