レッスン力をアップする5つの要素

先日、私が所属するアレクサンダー・テクニーク・レッスンスタジオBODY CHANCEにて「あなたのレッスン力」アップと題したセミナーを行いました。長年中学や高校の教諭を務めた方、日常的に研修で人前に立って話す方、歌の先生、そしてアレクサンダー・テクニーク教師になるために勉強中の方などにご参加頂きました。その要旨をここで紹介します。

 

 

よいレッスンとは

 

よいレッスンをする能力とは、上達ヘルプ力+自立ヘルプ力 です。

 

上達ヘルプ力:レッスンのその場で生徒の上達や成長を実際に促す・誘発する力

自立ヘルプ力:レッスンが終わってからも生徒が上達や成長をさらに進めていけるようにする力

 

これは私の個人的な哲学なので異なる立場も正当に成り立ちますが、究極のよいレッスンとは、たった一回のレッスンで、生徒の持てる能力に深く強くアクセスしてそれが発現するようにし、生徒は自らの能力や出来ることを実感し、またレッスンの後はその能力にいつでもアクセスできる方法をしっかり掴み1人でもその後常に上達し成長していけるので一切ひとに頼らなくても済むようになる。そんなレッスンだと考えます。

 

これはもちろん理想ですので、実際にはレッスンには一回だけでなく繰り返し通う方が、学ぶ側としては賢明でしょう。学びには継続的なサポートが必要ですから。しかし、教える側は、最終的に教えなくても本人ができてしまえるようになる、そんなレッスンを目指すことで、真の意味で生徒さんの役に立つことができるでしょう。

 

ひとの上達・成長そして自立を促すレッスンです。

 

 


その1:生徒をどう見るか

 

レッスンをするとき(教えるとき)に、教える側が教わる側をどのような存在として見るかがレッスンの質と意義を根本的に決定しています。上記したようなレッスンを目指すとすれば、それは生徒のことを「必ず素晴らしい能力を秘めている」存在として見ていることになります。

 

生徒の「何ができていないか」「何がダメか」「何が足りていないか」に注目しその穴を埋める、あるいはそこを直すという発想で見るのか。

 

あるいは生徒はすでに根本的には完璧と考え、いかにしてその本来の能力を引き出すか、あるいは能力の阻害要因を取り除いていく、という発想で見るのか。

 

これはレッスンの意味を全く変えます。

 

そして、生徒の「自立」を大切にするのならば、生徒にとっては、教える側によって「あなたは自立できる能力をちゃんと備えている」という見方をされることでその自信と実感を得ます。これが本質的には一番大事なポイントかもしれません。

 

 

その2:観察力

 

よいレッスンをするためにまず徹底したいのは、「生徒はいま目のまでどうなっているか」を観察することです。教える側のあなたが言ったことで、生徒は緊張や萎縮をしていないでしょうか?よくよく観察して下さい。

 

学びの成果を決めるのは、生徒がどれだけ理解と吸収ができるかです。しかし、身体的緊張、心理的恐怖、焦りなどはこの理解と吸収を妨げます。ということは、生徒の身体的緊張や心理的恐怖、焦りを取り除いてあげたいのみならず、教える側のあなたの言動によりこれらを生徒に生み出すことは、逆効果でしかありません。

 

何となく雰囲気だけでも、生徒があなたの目の前で緊張したり怖がっていたり焦っていたりする様子を感じ取れば、そのことにフォーカスしましょう。原因は何であれ、それを取り除くことこそが、レッスンの質を高めますし、往々にして生徒のいちばん行き詰まっている問題が、この緊張や恐怖または焦りの中に潜んでいることが多いからです。

 

 

その3:共感(想像)力

 

相手は何をどう考えているか、それを推測する力です。ここで重要なのは、あくまで教える側の推測であることに自覚を持つこと。その自覚がないと、変に湿っぽい共感や押しつけになってしまい、自立とは遠ざかります。支配や依存になりかねません。

 

生徒がいま何をどのように考えているかの推測を怠らないこと。なぜそれが重要かというと、それはよいレッスンとは生徒の本来持てる能力の発揮を促すことである、という基本に戻ってきます。生徒の問題や課題は、生徒の能力ではなく、生徒のいまの考え方ややり方にあるからです。それならば、生徒のやり方や考え方を、教える側のあなたが推測できていれば、生徒の能力に疑いを持つこと無く、より良いやりようやアプローチを見せてあげる(体験させてあげる)ことで上達と成長に直結するのみならず、生徒がその後も自発的かつ継続的に取り組み自立していく流れになるのです。

 

 

 

その4コミュニケーション力

 

生徒の「考え」の中で使われている言葉、筋道、発想にマッチした『伝え方』をする力です。これは先の共感(想像)力と重なるところもありますが、より教える上での技量面と関係します。

 

比喩で考えてみましょう。例えば幼稚園生に、「廊下を左折しなさい」と言っても、通じませんよね?幼稚園児には「あっちにいって、ひだり、こっちに曲がるんだよ」と身振り手振りを交えて簡単な言葉で言ってあげる必要があります。それは、幼稚園児の「考え」に沿わないと、一方的に何を言ってもなんにも伝わらないからです。

 

レッスンをするとき、何を教えるのでも相手の「考え」にマッチした『包装』を。あなたはこれから相手に受け渡すメッセージに施すことが大切です。

 

私が専門として教えているアレクサンダー・テクニーク。いまでは日本で20種類ほどの関連書籍が出版されていますが、「まったく分からない」というのが読んだひとほとんどの感想としての定番になっています。これは確かにアレクサンダー・テクニークが示唆するところが体の使い方であり、それを言葉で伝えること本来の難しさや限界があるのも要因の一つです。ですが、だからといって「意味不明」な内容を書き連ねてよいわけではありません。結局どの本も、「伝える」というところでは「失敗」しているわけです。

 

レッスンという観点で「有効なコミュニケーション」の定義は、

 

1:あなたの教えようとしていることが相手に伝わる

2:相手がそれを積極的に取り入れたくなり、自ら使うようになる

 

ということだと言えます。

 

私たちは多くの場合、1に過剰にこだわりがちです。正しい説明、正しい用語、正しい情報.... しかしこれにこだわると、2は達成できません。なぜなら、レッスンとは「あなた」についてではなく「相手」についてのものだから。ということは、「正しさ」より優先順位の高いものがありますね。そう、「相手の考え」です。

 

つまりコミュニケーション力とは相手を尊重し理解する力だとも言えます。相手の考えの性質や言葉に、あなたの方から「入り込む」ことで、レッスンは必ず良いものになります。

 

 

 

その5:学習環境

 

レッスンを有効なものとして成り立たせるかどうかを分ける、もう一つ大事な要因があります。それが学習環境の設定です。

 

これはレッスン室の設備云々、という意味ではなく、生徒の情報吸収と情報処理の能力が最大限に発揮されるように心身的「環境設定」を教える側のあなたが意図的に行うということです。

 

情報収集と情報処理の能力が阻害されるのはどういうときかを考えると、意味が分かってきます。ひとは不安や恐怖、身体的緊張状態にあると「学ぶ」ことが難しくなります。学ぶとは古い何かを手放し、新たな何かに進んでいくことだからです。それ自体がある種の「リスク」ですから、学ぶこと自体に本質的な緊張感があります。

 

だからこそ、それ以外の不安や緊張をあなたが意図的にほぐすのは非常に重要です。緊張をほぐす方法は色々ありますが、私が有効かつ外せないと思うのは以下の通りです。

 

 

◎冗談を繰り返し言う

  • はじめの方で

  • 難しい話をする前に

  • クラスが眠そうなときに

 

◎教える側である自分の弱みや失敗の経験をを話す

  • これから難しい課題に取り組む時

  • 深い話をするとき

 

◎小話や逸話を使う

 

◎ちょっとしつこいぐらい「質問、感想、反論はありますか?」と促す

 

これらはいずれも、教える側のあなたの人間味を生徒に感じさせます。すると、生徒は教える側との感情的なつながりを感じやすくなるのみならず、勇気づけられるのです。この「サポートされている」感覚が、学び本来の冒険的性質に生徒をしっかり後押しします。

 

 

 

【このセミナー参加者の感想】

 

観察のポイントが分かった。小さいながら教える場が有るので、きょうの内容を意識できればもっといい教室になりそう。 梅里隆一さん(マジシャン)

 

提案型を大事にするティーチング方式を知ることができてよかった!とにかく、話がおもしろい!相手の世界観・言葉で話すと言うことは、ピラティスのレッスンにも役立ちます。誰にでも自分の世界観や言い方で話していたことに気付かされました。 佐藤妙子さん(ピラティストレーナー)

 

自由に展開していくセミナーで良かったです!「提案型」のスタイルについては、心理療法の箱庭療法の在り方に近いかな、と感じました。分析に偏らず、クライアントとの関係性ができていき中で癒やされていくというもの。これは東洋的というか日本人に合ったスタイルです。事実に注目するという発想が、これからは役立ちそうです。 K.S.さん(会社員)

 

自分がコーラスを教える際にどのように不明瞭さをなくしていけるか、ヒントが掴めました!

M.A.さん(歌手)

 

職場におけるプロジェクトの実施にあたって、自らの部下への提案や師事の出し方を考えるよい材料になりました。自己学習の際の自分の置かれた学習環境も考えていきたいです。 N.H.さん

 

教える機会は普段無いけれど、内容が面白かったです。特に観察の話が面白かった。 A.T.さん

 

 

 

 

ジュリアード音楽院やギルドホール音楽院、バークリー音楽院から英国王立音楽大学など世界のトップレベルの音楽教育機関で、演奏家の才能を守り育てるために必須となっている心身教育メソッド「アレクサンダー・テクニーク」。無料メルマガですが、配信内容は豊富で出版されているあらゆる本より分かりやすく、役立ちます。

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